体力とは何か?-ケガを防ぎ、いつまでも動ける身体を作る-②
第2章:体力不足がケガにつながる理由
第一章では、人の体力を大きく5つに分けて考えました。
① パワー ― 力を発揮する能力
② コントロール ― 体を上手く操る能力
③ モビリティ ― 体を動かせる範囲
④ リカバリー ― 疲労や環境から回復・適応する能力
⑤ ハードウェア ― 身体そのものの土台
では、このどこかが不足した状態で、仕事・家事・運動・スポーツなどの負荷が大きくなると、身体には何が起こるのでしょうか。
結論から言うと、
〝身体は足りない能力を、別の場所や別の動きで補おう〟とします。
この「代償」が続くと、特定の筋肉や関節、腱などに負担が集中しやすくなります。
そして、
身体が受ける負荷 > 身体が耐えられる能力
という状態が続くと、痛みやケガにつながる可能性が高くなります。
① 力を発揮する能力が不足している場合

筋力や持久力が不足していると、必要な動作を行うだけでも身体にとって大きな負荷になります。
たとえば、
長時間立っていると腰が痛くなる
階段を上ると膝がつらい
重い物を持つと腰や肩に負担がかかる
ランニング後半になるとフォームが崩れる
といったことが起こりやすくなります。
筋力が不足すると、本来なら複数の筋肉で分担するはずの負荷を、一部の筋肉や関節が多く受けることがあります。
また、持久力が不足すると、最初は問題なく動けても、疲労とともに姿勢や動作が崩れやすくなります。
つまり大切なのは、
「その動作ができるか」だけではなく、「その動作を必要な時間、良い状態で続けられるか」
ということです。
② 身体をコントロールする能力が不足している場合

筋力が十分にあっても、それをうまく使えなければ身体への負担は増えます。
たとえば、
片脚立ちになると身体が大きくぶれる
着地したときに膝が内側へ入る
つまずいたときに立て直せない
疲れると左右の動きに差が出る
急な方向転換で身体がついてこない
といった状態です。
これは筋力そのものより、
バランス、安定性、反応、協調性などの問題
が関係していることがあります。
スポーツでは特に重要ですが、日常生活でも同じです。
階段、段差、振り向き動作、物を持ちながら歩く動作など、普段の生活では常に身体を微調整しています。
この調整能力が不足すると、関節や筋肉に余計な負担がかかりやすくなります。
③ モビリティが不足している場合

関節が必要な範囲まで動かなければ、身体は別の場所でその動きを補います。
たとえば足首が十分に動かない場合、しゃがむときに、
膝が過剰に動く
股関節の使い方が変わる
身体を大きく前に倒す
といった代償が起こることがあります。
また、股関節が動きにくければ、腰がその分多く動くこともあります。
このように、
動くべき場所が動かないと、別の場所が動きすぎる
ということが起こります。
ただし、柔軟性が高ければ高いほど良いわけではありません。
関節がよく動いても、それを支える安定性が不足していれば、今度は「動きすぎ」が問題になることがあります。
大切なのは、
必要な場所が、必要な範囲だけ動き、その動きをきちんとコントロールできること
です。
④ 回復能力が不足している場合

身体は負荷を受けたあとに回復することで、その負荷に適応していきます。
しかし、
睡眠不足
栄養不足
強いストレス
仕事による疲労
運動のやりすぎ
休養不足
などによって回復が追いつかなくなると、身体は徐々に疲労した状態になっていきます。
このとき怖いのは、
完全に動けなくなる前から、身体の機能は少しずつ低下している
ということです。
疲労がたまると、
筋力が落ちる
反応が遅くなる
バランスが悪くなる
集中力が低下する
動作が雑になる
といった変化が起こります。
つまり回復不足は、④だけの問題ではありません。
①〜③の能力まで一時的に低下させます。
その状態で強い運動や仕事を続ければ、当然ケガのリスクは高くなります。
⑤ 身体そのものの土台が不足している場合

筋肉、骨、腱、靱帯などには、それぞれ耐えられる負荷があります。
運動を続けることで、これらの組織は少しずつ強くなっていきます。
しかし問題になるのは、
身体の適応よりも負荷の増加が速い場合です。
たとえば、
急にランニングを始める
走行距離を急激に増やす
久しぶりに強い運動をする
重い物を扱う仕事が急に増える
練習頻度を一気に増やす
といったケースです。
心肺機能は比較的早く向上しても、腱や骨などの組織はゆっくり適応します。
そのため、
「息は苦しくないから大丈夫」でも、脚の組織はまだその負荷に耐えられない
ということがあります。
スポーツ障害でよく見られるのが、このパターンです。
ケガや障害が起こりやすい人には共通点がある
もちろん、ケガには偶発的なものもあります。
転倒や衝突など、体力だけでは防げないものもあります。
しかし、繰り返し起こる痛みやスポーツ障害には、いくつか共通した特徴があります。
代表的なのは、
負荷を急に増やす
疲れていても休まない
同じ動作ばかり繰り返す
筋力や持久力に対して活動量が多い
関節の動きに制限がある
バランスや身体のコントロールが苦手
痛みをかばいながら動き続ける
睡眠や栄養が十分でない
身体の状態が悪いのに練習内容を変えない
といったものです。
つまり、
ケガをしやすい人=身体が弱い人
とは限りません。
非常に体力のあるスポーツ選手でも、負荷が能力を上回ればケガをします。
反対に、体力がそれほど高くなくても、自分の能力に合った負荷で活動していれば問題が起こらないこともあります。
ケガは「弱い場所」に起こるとは限らない
ここも重要です。
痛みが出た場所が、必ずしも一番悪い場所とは限りません。
たとえば股関節の動きが悪いために腰へ負担が集中し、腰痛が起こることがあります。
足首の動きやバランスに問題があり、膝に負担が集中することもあります。
つまり、
〝痛みが出ている場所は、身体の中で負担を引き受けている場所〟
であることがあります。
そのため、痛い場所だけを治療しても、負担が集中している原因が残っていれば、同じ症状を繰り返す可能性があります。
「負荷」と「体力」のバランスが大切
ケガや障害を考えるときに重要なのは、
〝どれだけ負荷がかかっているか〟
と
〝その負荷に耐えられる身体があるか〟
のバランスです。
負荷が小さすぎれば身体は強くなりません。
しかし、負荷が大きすぎれば身体は壊れます。
理想は、
身体が適応できる範囲で少しずつ負荷を上げること
です。
運動もリハビリも同じです。
適切な刺激を入れ、しっかり回復し、身体が適応したら次の負荷へ進む。
この積み重ねによって、ケガをしにくく、より活動できる身体へと変わっていきます。
痛みを見るだけでなく、「なぜ負担が集中したのか」を考える
痛みがあると、どうしてもその場所だけが気になります。
しかし身体は、いくつもの関節や筋肉が連動して動いています。
そのため、
なぜそこに負担が集中したのか
を見ることが大切です。
筋力なのか。
身体のコントロールなのか。
関節の動きなのか。
疲労や回復不足なのか。
それとも単純に活動量が多すぎたのか。
原因は一つとは限りません。
痛みのある部分だけではなく、身体全体の状態と普段の活動量を合わせて考えることで、より本質的な改善につながります。
第2章では体力不足がケガにつながる理由を説明しました。
次の章では、実際にどのような対策をすればよいのかをご説明します。

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